当事者が語る、一人で創業したスタートアップが上手くいかない本当の理由

スタートアップをやる上で、最近非常に良く言われるのが、複数名で創業しよう、ということです。シリコンバレーのアクセレレーター、Y Combinatorのポール・グレアムも一人のチームの申し込みは書類も見ないと言っています。

グレアム氏の主張

ポール・グレアム氏は色々なところで、この件について触れていますが、私がみたところ次のような理由を挙げています。

  1. スタートアップはやることが多すぎて一人では無理
  2. 精神的に一人だと厳しい。励ましあえる仲間が必要
  3. そもそも一人も説得できなかったアイディアが上手くいくはずがない

実際私も一人で創業したあたりでグレアム氏の意見はどこかで目にしたことがあるのですが、あまりピンと来なかった記憶があります。「そんなこと全てのスタートアップにあてはまるはずないじゃん。メンタル面は気合でなんとかなる。」くらいに考えて、自分は別だととらえていました。

でも、創業して数年たった現在は、グレアム氏の言っていることに全面的に賛成します。

ただ、2、3のメンタル面やアイディア面というよりも、一番大きな理由は1のやることが多いだと思いますので、これについて深堀してご説明したいと思います。

サービスやアプリは開発するだけじゃだめ

当たり前ですが、WEBサービスやアプリは作るだけではだめです。

  • 事前の念入りなマーケティング調査
  • ユーザーテスト
  • ローンチ後のプロモーション活動
  • コンテンツがいるサービスであれば大量のコンテンツ作成

などなど、開発以外にも色々とやることがあります。

エンジニア出身の創業者に多い誤りが、開発というフェイズの比重を重くみすぎてしまい、他のフェイズに割り当てるリソースを残していないことです。それぞれに開発と同じくらいの労力とスキルレベルがかかるとみてもいいくらいです。

そして、これらの領域を全てを一人でやるのはどう考えても無理ですよね?

外注すればいいじゃん?

こちらは逆に非エンジニアの創業者に多い誤りですが、開発工程をまるまる外注しようとすることです。

この方法はある一定のビジネスサイズまでであれば、有効な方法です。例えば、WordPressを使ったバイラルメディアやアフィリエイトサイトなど。

そこまで独自性は要らなくて既存の成功モデルにのっとっているので、カタく利益を上げることができる可能性があります。

システムの実装は外部のエンジニアに任せて、創業者はマーケティングやコンテンツ作成に集中するというような形です。ローンチ後もそこまで実装に変更を加える必要がないはずなので、発注は一度切りで済む可能性が高いです。

しかし、一般的に「スタートアップ」とよばれる企業は、そのようなビジネスモデルではなく、もっと新しい枠組み自体を作ろうとする会社なのではないでしょうか。

なので、当然システムは独自にプログラミングする必要があるし、ユーザーのフィードバックに合わせて、細かく修正を加える必要が出てきます。

なので、一度発注すれば良いわけではなく、ある程度長い契約が必要になってきます。

すると、昨今そのレベルのことが一人でできるエンジニアの給与はかなり高額なので、シードマネーが入っているスタートアップとはいえ、速攻で資金ショートしてしまうはずです。

そのレベルであれば感覚的には年収ベースで800万円はかかるとみてもいいのではないでしょうか。

外注エンジニアと創業エンジニアのモチベーションの違い

仮に湯水のように資金があるスタートアップがあったとして、外注も普通に長期契約できたとしても、そこには大きな落とし穴があります。

外注エンジニアのモチベーション

外注したエンジニアのモチベーションはどこにあるのか考えてみてください。

そのエンジニアは、そのサービスがヒットしようが失敗しようが、給与は変わりません。契約上その期間作業をこなしさえすれば、確実にそのお金がもらえます。

ということはどうなりますかね?

そうです。ヒットを目指して頑張らないことになります。極端な言い方をすれば。
ついでにいうと、エンジニアの人が日々の仕事の中で何が一番嬉しいか知っていますか?

それは、新しい技術を経験することです。職業エンジニアは、新しい技術を経験している人ほどチヤホヤされます。技術系の勉強会やカンファレンスに行って見ればわかりますが、やはり新しいことに挑戦している人が発表している場合がほとんどです。みんながやったことがある内容は大抵発表されません。

こういうモチベーションの人がスタートアップで働くと、どのようなことがおこるかというと、不必要に新しい技術や開発スタイルを使おうとする力がどうしても働いてしまうのです。

するとどうなるかというと、例えば、ユーザーにとって全く関係ない内部のアルゴリズムに時間をかけたり、まだ全然使われていない超最新のプログラミング言語を使ってしまったりします。

ちなみに、プログラミング言語は古すぎてもダメだし新しすぎてもダメです。今後エンジニアが採用しづらくなってしまうからです。

創業エンジニアのモチベーション

それに対して、創業メンバーに入っているエンジニアのモチベーションはどのようなものでしょうか。

一番大きいのは、給与をもらう代わりに株をもらっているということです。
(私は株を持っていないメンバーは創業者ではないと考えます)

給与はゼロではないと思いますが、通常のエンジニアに払う額に比べると微々たるもののはずです。

株を持っているとどうなるかというと、エンジニアとして普通に働けばもらえるはずの給与から今もらっている微々たる給料を引いた金額は、毎月その会社に投資してる感覚になります。

その株の最終的な価値は、そのサービスの成功度合いに比例して変動します。なので、そのエンジニアは、どう考えてもできるだけサービスが成功するように頭を使うことになるのです。

成功のためには無駄なことはしないし、ユーザーを第一に考えた行動をとってくれます。採用がしづらいプログラミング言語をあえて選ぶことなんて絶対にしません。

とはいえ、日本はまだまだ創業者になりたいエンジニアは少ない印象です。作業量にみあった給与をリスクなく欲しいという方が多いのです。

自分はひそかに日本でそんなに革新的なスタートアップがでてこない理由はここにあるのでは、と睨んでいます。今後エンジニアにもビジネスや株の知識が普及して、創業メンバーになりたい人が増えてきたら、変わるかもしれません。
(理系文系を明確に分ける日本の教育の弊害ですねー)

グレアム氏が複数名創業(エンジニアを含める)を勧めるわかりやすい理由

グレアム氏は複数名創業かつエンジニアをその中に入れることを勧めています。まぁ、これは成功確率が上がるからという言い方もできますが、穿った味方をすると、投資家サイドから見ると、人数が多いほどお得な投資案件になる、という言い方もできます。

つまり、創業メンバーは株の値上がりをモチベーションにしているので(もちろんビジョンとかもありますよ!)、そこまで給与を必要としません。

なので、例えば一人の会社と二人の会社を比べると、同じバリュエーションで、2倍のマンパワーを買えるということになります。

具体的にいうと、2社とも1000万円を10%分の株で投資するとします。投資家からすると、その10%は同じ値段なのですが、かかっているマンパワーが倍違うのです。

じゃぁ一人で起業したらダメなの?

以上のように、一人でスタートアップをやるのは自分は無理ゲーだと考えています。最低でも、マーケッターとエンジニアの2人がいる状態で創業(株を持っている状態)すべきです。

じゃぁ、一人で起業したらだめか?というと実はそんなこともないと思っています。

というのは、「スタートアップ」という枠組みでは、上でも説明しましたが新しいことをやる必要があるので一人では厳しいが、もっとビジネスサイズが小さいモデルで一人で起業するのは全然アリだと思います。

例えば、上でいうメディア系やアフィリエイトだったりといった、いわゆる「スモールビジネス」や「ネットビジネス」といったものです。

これらのビジネスはむしろ一人で成功している人の方が多いです。

なぜ、一人で成功可能かというと、独自なプログラミングも不要だし、基本的にすでにある商品を売るのでマーケティングコストも安くすむからです。

いちいち、ユーザーテストしなくたって、既存の商品ならネット上に口コミがあるので、それを分析しさえすれば、マーケティングになるので。

このような「スモールビジネス」や「ネットビジネス」の領域は、スタートアップ業界にいる人やエンジニアには、「なんにも産み出してないじゃん」とバカにされている傾向があると思います。

でも、そのようなサイズから収益を少しずつ増やしていき、わらしべ長者的に大きくしていって、その資金力をもとにスタートアップ的な新しい枠組み作りに挑戦するというのは現実的な正攻法だと今は思います。

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